日本の教員免許を取得し、一般の教員採用試験に合格しても、日本国籍をもっていなければ「教諭」ではなく、「任用期限を附さない常勤講師」として任用されます。

和歌山県では、賃金など待遇面は教諭と同じとされていますが、職名が異なることや、主任などになれないことなど、取扱いに差があります。

私たちは、国籍の違いによるこうした取扱いの差は問題であると考え、改善を求めています。

2023年10月20日 記者発表をしました

10月20日、私たちはこの問題について、教育記者室において記者発表を行いました。発表した内容は次の通りです。

外国籍の教員の任用に関する問題について

現在、日本国籍を有しない人が日本の教員免許状を取得し、国内の公立学校教員採用試験に合格した場合、多くの都道府県では「教諭」として採用されず、「任用期限を附さない常勤講師」として採用されています。

 一般的に「教諭」は正式に採用された教員、「講師」は臨時的に任用される教員(定数が未充足の場合の補充や、産育休・病休の教員の代替者など)の職名です。

 一般的な「講師」の給料は、「教諭」よりも低く押さえられていますが、和歌山県では「任用期限を附さない常勤講師」は給料その他勤務条件は、教諭と同じとされています(全国的には「講師」と同じという自治体もあります)。

 しかし、「講師」は学校教育法で「教諭に準ずる職務に従事する」とされていること等を根拠に、主任になれないとされています。また、外国籍の教員は管理職(校長・教頭等)にはなれないとされています。

 主任については、校内では教務主任や進路指導主任、学年主任などがいます。主任手当が支給される主任(学校規模等にもよる)もありますが、管理職のように試験もなく、毎年年度当初の役割分担の中で、その他の役割(各教科の担当、総務部、保健体育部、研究部、環境整備部など)とほぼ同様に扱われ、教員の経験等を踏まえて人選が行われます。

 近年、外国籍の教員が経験を積み校内で信頼を得ながら、しかし、国籍の違いによって主任にはなれないことから、本人が、これまでの教職経験を否定されたような辛さを感じた事例があり、私たちはあらためてこの問題について検討し、教員採用試験に合格しながら、国籍の有無によって、「教諭」になれないという取り扱いにこの問題の根本があるとあらためて考えました。

なぜこのような問題が起こっているのか(これまでの経過)

 1952年、サンフランシスコ条約の発効とともに旧植民地出身者は日本国籍を喪失、すでに公務員になっていた者に対して政府は帰化を申請させました。しかし帰化申請しない者がいたために、自治体から照会があり、内閣法制局は次の見解を示しました。

 「法の明文の規定が存在するわけではないが、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使また  は国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍が必要」(この見解はその後「当然の法理」といわれる)。

しかしこのときには、「地方においてそれ以外の公務員になるためには日本国籍を必要としないものと解せられる」とされました。

 その後、自治省が、「当然の法理」が地方公務員にも及ぶと回答(1973)する一方、いったん設けられた教員採用試験の国籍条項を撤廃する自治体が現れるなど、様々な動きがある中で、1982年、「国公立大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法」が施行されました。主な内容は下記の通り。

  • 日本国籍を有していなくても教授、助教授、講師への任用は可能。
  • 教授会等の議決に加わることができる。
  • ただし、管理職への任用は認められていない。

 そして同時に、文部省は、「なお、国立又は公立の小、中学校、高等学校等の教諭等については、従来どおり外国人を任用することは認められないものであることを念のため申し添えます」と通知の中で付け加えました。

 さらに1983年4月の中曽根首相答弁書で「公立学校の教諭については校長の行う校務の運営に参画することにより、公の意思の形成への参画に携わることを職務として認められ、右の法理の適用があると考えられる」とされ、これが以降の政府解釈となりました。

 1991年1月、「日韓法的地位協定に基づく協議の結果に関する覚書」の中で、「公立学校の教員への採用については、その途をひらき、日本人と同じ一般の教員採用試験の受験を認めるよう各都道府県を指導する」ことが確認されました。これを受けて、同年3月文部省が「在日韓国人など日本国籍を有しない者の公立学校の教員への任用について」を通知しました。主な内容は下記の通りです。

  • 1992年度教員採用選考から受験を認めること。
  • 合格した者の職を「任用の期限を附さない常勤講師」とすること。
  • この「常勤講師」は、一般職地方公務員として任用し、給与その他の待遇は可能な限り教諭との差がなくなるように配慮すること。
  • 所要の教員免許状を有していれば、以上の取り扱いはすべての日本国籍を有しない者にもその効果が及ぶものであること。

 現在、和歌山県教育員会を含め多くの教育委員会が、この通知に基づいて採用及び身分の取扱いを行っています。

私たちの要求
■労働基準法に基づいた均等待遇を

労働基準法は「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」(第3条)としています。和歌山県では、賃金や労働条件面では「任期の期限を附さない常勤講師」と教諭との間に差はありませんが、しかし、採用試験に合格していながら、職名が異なること、主任や管理職になれるかどうか等の点においては「差別的取扱」が行われているものと考えています。

文科相の91年の通知には法的根拠はありません。また、そのおおもとである53年の「当然の法理」も内閣法制局の見解であり、法律ではありません。

労働基準法に則って、国籍に関係なく均等に取り扱うべきです。

■教員の職務は「当然の法理」の対象外

仮に、「当然の法理」に妥当性があり、法的に認められるものだとしても、教員は「公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員」とまで言える権限を有しておらず、教員については「当然の法理」の対象外とすべきです。

■大学教員との整合性

国公立大学の教員は国籍に関係なく教授等になることができるのに対し、小・中・高校では認められないというのは、整合性がとれないと考えます。

文部省は、公立学校の教諭は、校長の行う「公立学校としての公の意思形成」に参画するので、「当然の法理」に抵触するとし、教諭のどの職務がこの「参画」に当たるかについては、「イ.学校の基本方針の原案を企画、立案、提出し責任ある立場で校長に意見具申する」「ロ.退学許可、課程修了・卒業認定、懲戒などの前提となる成績評価や素行・性行などの評価を行い、原案を作成することと等」としています(91年3月通知と同時期に示された解説)。これらの職務は大学教授も行うものと考えられ、大学では外国籍の教員が行えるが、小・中・高校ではできないというのは均衡を欠いています。

■グローバル化のなかで

「グローバル化」がいわれ、小学校でも外国語の学習が始まっているこの時代に、外国人採用を特別扱いすることは時代に合わないと考えます。

■県教委は独自判断をすべき

和歌山県教育委員会は、県内公立学校教員の任命権者であり、採用やその身分取扱いについても責任を負っています。全国的に文科省の通知と異なる対応をしている自治体があるように、国は教育委員会に対し、「お願い」はできても「強制」はできないものと考えます。和歌山県教育委員会は、この問題について、法的、道義的にどうあるべきか、主体的に判断し、ただちに外国籍の教員を教諭として任用すべきだと考えています。

私たちの運動と現時点での到達について

私たちは今春以降、組織内と関係団体に協力依頼をし、署名を集めています。内容は別紙の通りです。現在の到達は約2,000筆です。

今後、さらに集めて年内には県教育委員会に提出したいと考えています。

また、私たちの上部団体である全日本教職員組合(全教)とも相談をし、この運動を今後、全国的に広げていきたいと考えています。

県民のみなさまには、学校現場においてこうした問題があるということをぜひ知っていただきたいと思います。そして、ご賛同いただける方は署名へのご協力もお願いいたします。その場合は、和歌山県教職員組合にご連絡いただければ、署名用紙を送らせていただきますし、和歌山県教職員組合のホームページからダウンロードして頂くことも可能です。

私たちの取り組みへのご理解とご協力をお願いいたします。 

参考文献:中島智子・権瞳・呉永鎬・榎井縁『公立学校の外国籍教員 教員の生(ライヴズ)、「法理」という壁』(2021年明石書店)